現在、FAU自由読書会で読み進めているマルセル・モース『贈与論』の最終章には「ごく最近になって、われわれの西欧社会は人間を経済的動物に変えてしまった。」と記述されています。1925年に出版された本なので、私たちはほぼ一世紀の間「経済的動物」のままでいるようです。2021年最初のFAUレクチャーは、マルセル・モース『贈与論』を構想しなおし、現在に繋がるよう分かりやすく書かれた『贈与論 資本主義を突き抜けるための哲学』(2019年)の著者、岩野卓司さんと共に21世紀の「贈与」について考えます。
贈与は古くて新しいテーマです。
それは贈与が未開人や古代人の交易でもあれば、村社会の風習でもあるからです。こういったものは今では時代遅れのものと見なされがちです。とはいえ、お中元やお歳暮の風習、クリスマスや誕生日におけるプレゼントの習慣、日常的な「おごったり」「おごられたり」の関係は依然として存在しています。僕らは利益を求める商取引だけで生きているわけではないのです。その上、現代社会では、臓器移植、ボランティア、ベーシック・インカムなど新しい形の贈与が出現しています。だから、贈与は新しいテーマでもあります。
それでは、どうして贈与は必要なのでしょうか。それは、ありとあらゆるものを商品化しようとする資本主義に世界がおおいつくされてしまうことに僕らが抵抗しようとしているからです。マルセル・モースの『贈与論』は、未開人や古代人の贈与の風習について人類学の研究として有名ですが、彼がこの本を執筆したのは利潤を追い求める経済中心の社会に危機感をもっていたからです。そのため、『贈与論』の最後の章では、未開人たちの贈与交換からヒントを得て社会保障制度などについて提言を行っています。また、彼の着想は多くの後世の人たちに刺激を与え、レヴィ=ストロース、バタイユ、デリダ、昨今ではグレーバーが批判的に贈与論を継承しています。
この講義では、身近な贈与の話題から始めてモース『贈与論』のもっている現今の社会における可能性についてお話し、みなさんと意見の交換をしながら、いっしょに贈与について考えていきたいと思います。〔岩野卓司〕
日 時:2021年1月24日(日)15:30~18:00 開場15:00
場 所:自由芸術大学 高円寺北3-8-12 フデノビル2F 奥の部屋
スピーカー:岩野卓司(明治大学法学部・教養デザイン研究科教授)
司 会:丸川=蘆=哲史(明治大学政治経済部・教養デザイン研究科教授)
参加費:無料/カンパ制(15名限定:予約制+WEB参加)
※新型コロナウイルス感染予防のため入場は15名までです。最低一カ月は続く緊急事態宣言が発令されましたのでWEB(Zoom)のみの開催とさせていただきます。
WEB参加は以下のフォームよりお申し込みください。
岩野卓司 1959年埼玉県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。パリ第4大学大学院博士課程修了。現在、明治大学法学部・教養デザイン研究科教授。著書に『ジョルジュ・バタイユ──神秘経験をめぐる思想の限界と新たな可能性』、『贈与の哲学──ジャン=リュック・マリオンの思想』、編著に『語りのポリティクス』、『他者のトポロジー』、『共にある焉』(共訳)、オリエ『ジョルジュ・バタイユの反建築』(共訳)等。
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